個人的な体験


ちょっとメカから離れて(いや、離れないけど)、楽器遍歴をちょっと書いてみようかなと。


いちばん最初に買った楽器はカシオトーン。今手元にはないけど、まだ現役で働いています。紆余曲折があって、なぜか松田聖子の「赤いスイートピー」の伴奏が弾けるようになりました。伴奏だけ弾けても意味ないですね。


そのあと、シンセサイザーを買いました。普通のポップスみたいな曲を作りたかったのでポリフォニック。……ポリフォニックという概念すらわからない人もいるかもしれませんね。非常に高価でした。そして重い。できることもたかが知れている。でも、それとカシオトーンのリズムで曲を作っていました。MTR(もちろんカセット)も高くて買えなかった。コンパクトなミキサーを買うのがやっと。


それでどうやって宅録(バンドなんてやる気は最初からなかった。周囲と音楽的趣味が違いすぎたし、なによりも鍵盤を弾けなかった)していたかといえば、ピンポン録音というのをしていたのです。カセットデッキを二台用意して(たまたま家にあった)、最初にリズムを録音して、次にそれを再生しながらミキサーでシンセベースを重ねていき、今度はそれを再生しながらまた別の音を重ねる、という、とんでもないことをしていたのです。


ポップなつもりでしたが、人に聞かせるとみんな困ってました。ポップじゃなかったのかもしれません。


その後、リズムマシンを導入し(やっと買える値段のが出てきた)、昔は楽器屋でマイナーメーカーの形落ちシンセとかを半値以下で処分したりしていて、三台まで増やしました。


そのうちのひとつには256音のシーケンサーが付いていたので、結構役に立ちました。


そうそう、わたくしはカシオトーンを買うまで、鍵盤楽器なんて習ったこともなかったのです。だから弾くのも必死でした。タッチレスポンスなんてなくてよかった。そこまでコントロールできませんでしたから。


MTRを手に入れたのもこの頃でしょうか。4トラック。それでもなんとかなるものです。


で、カセットテープ何本かの作品を作ったところで突然ギターに目覚めます。渋谷の某CDショップでmy bloody valentineのIsn't anythingをジャケ買いして、それまで興味の無かったギターに一気に目覚めたのです。


ギターのことはまったくわからなかったので、ギター弾きの友人に勧められるままにYAMAHAのロックナット、フローティングトレモロのギターを買いました。どちらかというとヘビメタ指向のギターです。


で、そのままではまったく使い物にならないことを知って(宅録だからアンプを買うという発想がなかった。アンシミュは……)で、オーバードライブを買いました。それが長らくギターアンプの代わりでした。


今も病んでいますが、その頃も病んでいてお金がなかった。バイトできなかったから。奨学金でギターを買ったのは内緒です。


ギターは中学生の頃になぜかフォークギターをはじめたのですが、何しろ箸と茶碗よりも重いものを持ったことがなかったので、どうにもならずに挫折しました。


でもエレクトリック・ギターの弦はやわらかかったので、気合いで音を出せるくらいにまでなりました。Fも押さえられるようになりました。


その後ギターにはいろいろな種類があることを知って、買うべきギターを間違ったことを知りましたが、いろいろ手を尽くしてなんとか好みの音が出るように調整しました。


その後プレシジョン・ベースも手に入れたのですが、こいつははからずもわたしの命を助けてくれることになりました。ずっと後になって運命のベースと出会ってしまったのですが、今は人にあずけています。


その後諸般の事情で音楽製作からは撤退していました。そのかわりに過去の音源をウェブにアップする、ということをしていました。でもつまらなくなってやめてしまった。今も密かに存在します。


そして、ある音楽と出会って、音楽活動を再開することを決めました。が、再び病を得て、実際にはじめたのは一年と少し前です。その後ちょっとした車が買えるほどのお金を楽器や機材に注ぎ込んで今に至りますが、ときどき「いい」と言ってくれる人がいるのでいいことにしています。シンプルこの上ないサイトを作って音源をおいてありますが、それはEmulator名義ではないのでどこにあるかは内緒です。


それに、たぶんほとんどの人には面白くないと思います。


今現在、医者にあまり積極的なことをするなと言われているので作っていませんが、いずれここで発表すべき音源のサイトを作ります。基本的にアルバム単位で、今のところ二枚までできています。


一枚目のアルバムは、あちこち行商に行ったのですが、置いていったまま行方不明、音信不通です。ちょっと時期が悪かったのです。断られる分にはまあ仕方ないで済むのですが、一度問い合わせをしたら担当者から連絡がいくはず、ということでおしまい。になってしまいました。


ずっと宅録ですが、今の目標はライブをすることなんですが、誰に聞いても要領を得ないというか。フォーマットが違うと、場を探すのが大変なのです。個人で企画するしかないのかと最近思っています。


なぜこんなことを長々と書いたかといえば、id:amiyoshidaさんの
http://d.hatena.ne.jp/amiyoshida/20070325/1174815274#c
における「まあ、だいたいの実験は偉大な現代音楽家がたいていやってるんですが、知らずにやったという事実は面白いです。しらないだけに今までにない発見や視点が含まれる場合もあるので。」というのにコメント返ししたかったのですが、あまりに長大になるのでこちらでやらせていただきました。


知らず知らずのうちに先人たちと同じことをやっているのは、「反復」ということです。キルケゴールはこの概念の拡張に「否!」というかもしれませんが。いや、たぶん言うでしょう。


ここで、「人間の発想なんて……」と考えてはいけません。というのも、これが模倣ではないということだからです(模倣が悪いわけではない。念のため)。わたしのつまらない楽器遍歴を長々と書いてきたのも、模倣というよりも「反復」に近いと思っているからです。いろいろな方法論を自ら編み出したつもりでも、それは過去に誰かがやっていたことだったりするのです。


ギターを手にしてからはディレイによってリズムを作り出すという方法を編み出しましたが、それも結局そういうことなのです。そして今取り組んでいることも同じことなのでしょう。なかなか「場」を見つけることができないでいますが、どこかにあるはずです。


音楽や楽器との出会いはきっかけに過ぎないと思っています。そこからどこへ行くか、手探りです。模倣や「反復」を越えたとき、それはオリジナルになるのでしょう。
(3月31日加筆修正)