柴田元幸トークショー&サイン会 トークゲスト 川上未映子 2008/05/03@青山ブックセンター


柴田先生のトークショーなんだけど、なんか連続して川上未映子さんのトークショーに参加していることになる。これは他の人の機会を奪っているわけで、どうなのかな、と少しだけ思う。世の中って、難しい。


というほど何かを考えていたわけではない。体の調子は良くなかったが、嬉々として出かけていったわけだ。未映子さんのトークショーには何度も出かけているわけだが、毎回相手は違うわけで、今度はあの柴田先生だ。嬉しくないわけがない。


また順序は前後するし、トークショーというのはそういうものなのだろうから、いいことにする。未映子さんもおっしゃっていたけど、ライヴなんだろう。


今回のトークショーの趣旨は、柴田先生責任編集の雑誌、『モンキービジネス』創刊記念、ということだった。始まる前にぱらぱら読んでいたけど、わたしの知る限り、いま日本で刊行されている文芸誌の中で、いちばん好きだと断言できる、それは、掲載されているテキストや、イラストレーションあるいは絵画に対する取り扱いが、これ以上ないと言うほど丁寧だということに尽きる。こんなに贅沢な雑誌は、あまり見たことがない。大昔に廃刊になってしまったが、「海燕」という雑誌が、比較的そうだったが、これの50%くらいだっただろうか。それ以外の、大半の雑誌は、10〜20%程度である。


今回は柴田先生がすぐに話を始めて、すっと内容に移っていった感じ。ということで、箇条書きで。29日とわりとだぶるので、簡潔に。


未映子さんがスーパーか何かの地下にある(『乳と卵』のひとつのエピソードとして書かれていた)、お金を入れてまたがったり中に入ったりするとがたがた揺れるあれの中の、ロボコンに入って、ロボコンの目は中から外は見えるけど外から中は見えないので、外から見ると自分はロボコン、でも自分自身は何も変わらない、驚いて外に飛び出して、「お母さん、ロボコンは脱げるけど自分が脱げない!」と言ったら、「その辺走ってこい!」と言われたとか。そういうことを言うと、「ちょっとその辺走ってこい!」みたいな感じだったようです。


・やはり不思議でしょうがなかったのが、頼まれもしないのにいつの間にか存在していて、ある日いきなり強制終了なんておかしい、みたいなことだったとか。いろいろ。


・柴田先生によれば、ひと世代、だいたい12歳くらい下の年代から、日本語の言語感覚が変わっているのではないか、ということ。日本語から英語に翻訳しにくい、と。でも町田康を訳すのは難しいかもしれないけど、中原昌也は訳せそうだと。もちろん未映子さんも訳すのが難しい。


・それに関連して、イギリスのある翻訳者が、高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』を三年前に訳した、という話をされていた。知らなかった。すごい。柴田先生は、パッションがあれば、どんなものでも訳せるのではないかと述べていた。


未映子さんは、『イン歯ー』を書く前に多和田葉子の『ゴットハルト鉄道』全文を書き写したそうだ。その過程でいろいろと見えてくるものがあったということで、わたくしの考えでは、それがおそらくは「小説」への第一歩だったのではないかという気がする。私事で恐縮だが、『ゴットハルト鉄道』は、多和田葉子のことをぜんぜん知らなかったのに(芥川賞とか興味なかったので。つーか、単行本を買うなんてことはまずなかった)、「呼ばれた」。手にとってぱらぱらとめくってそのままレジへ持っていって、家に帰るとすぐに読み始めたのだったような気がする。


・「ヴォイス」の問題。これは「文學界」の松浦理恵子との対談で未映子さんが述べていることでもあるのだけど、さらにその前の話があって、でも面倒なので省略。「ヴォイス」とは、作家がどのように書いたとしても、その作家でしかあり得ない何か。もちろんそれはテキストの形で表出するわけだけど、いわゆる単純な意味での文体ではなくて、まさに意味通り、「声」のようなもの。


・「ヴォイス」に関してはカズオ・イシグロが例に挙げられていたが、柴田先生に「ヴォイスは常に更新されていかねばならない」という意味のことを語ったそうな。


このへんで質疑応答が入り、未映子さんの朗読(『そらすこん』のサボ子が死んじゃう話)、再び質疑応答、そして柴田先生による朗読(レベッカ・ブラウン「腹話術師」)、そしてサイン会へ。ということで、質疑応答に関することを。


・柴田先生は翻訳をするときに自らの「ヴォイス」を入れるのか、という質問に、「誰が翻訳しても同じになるように訳している、もちろんそれはほんとうはあり得ないのだけれども」と答えていらした。つまり、できるだけニュートラルに、ということだ。


・作家は他者を現前化させる、ということ。作品の中に他者を書き込むこと。柴田先生は自分ではあまりうまくできないと述べていらした。未映子さんも、人から見ればかけているようだけど、『乳と卵』の三人は結局全部自分だし、と述べていらした。


・お二人に対して、仕事と私生活での今後の目標、という質問が出ていた。柴田先生は現状維持。でも現状維持といっても、立ち止まると現状からどんどん遅れていってしまうので、それこそ更新し続けなければならない、ということだった。未映子さんは、仕事では、「文芸」、私生活では「趣味もないし……」「大恋愛がしたい」「爆発したい」というようなことを述べていらした。


未映子さんは、なんとあの『フィネガンズ・ウェイク』を読むというのか眺めるというのかが大好きなのだそうだ。うっとりしてくると。


・前後するけど、ライヴ問題。われわれはすべてにおいて最初から孤立していることがわかっているのに、それなら家でテキスト読んでいればいいのに、どうして人に、誰かに会いに行くのか、ということ。会いたいという気持ちはなんであるのか。


不正確なところも多いと思うけど、勘弁して欲しいと思います。メモ取ったりするのがめんどくさいので。